Contemporary Art

極小美術館

2015.1/18(sun)~ 2015.3/29(sun)

No.16

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

版のあとさき

廣江泰孝(岐阜県美術館 学芸員)

 その色は、宙に投じられ規律を従えながら重なり、リズムを潜ませながらも不可侵という不文律に彩られながら拡がり、何度も再生を繰り返し存在しようとする。画面へ投じられる襲(かさね)の色目は、透明な交わりを互いに尊重し、色の中に色を封じ込める。互いに共鳴し合うことで、その反動さえも内なる律動と同化し、色の領域として、色価が持つ重さのようなものを表現の基軸としている。それは画面の中で上昇下降に似た感覚をもたらし、突出する色の衝動にも似たストロークさえも、遭遇する偶然の出会いを必然の邂逅(かいこう)に置き換えて、その空間に還す。やがて解き放たれる瞬間を待ちわびつつ結晶する世界の一端を順に辿っていくような一点一点である。
 堀江良一は、油絵具を用いた多版多色刷りによる木版画で知られている。シリーズ「弧のある風景」と題した木版画は、色相環を思わせる虹色の配色が、定められた場所へと版を重ねる度に収まっていく抑制の効いた表現の中に、いつも何かを予感させるはじまりがある。色空間の中で創り出される七色の色域は、見慣れた虹色ではなく不思議と未知の空間を思わせる。版上の形と色が生み出す表現の在処を確認しながら、時には反発し合う存在として、本人でさえ再度、手を加えることのできない孤高の空間世界を、また緊張関係を表現してきた。
 そうした版の仕事のあとさきに、ローラーで練った絵具からインスピレーションを得た絵画を黙々と制作してきたことはあまり知られていない。キャンバスへ直接描くことにこだわり、面が生まれ色を纏い、また色として消滅していく過程の中に身を置いた作品を制作している。描くということは、筆の先にある新世界の出現にのめり込む、作家の感覚により近い表現方法である。画面を成立させる色、またその色から変容していく新たな色を模索しつつ、静かな筆致で空間を埋めている。縦へ横へと規則性を思い起こさせるような、永遠の二次元の命題が描かれている。そして終わりのない拡がり続けるイメージの一端を、画面に切り取って描いているような、堀江良一という作家の色の領域を観る。版画への没頭が絵画への渇望を、絵画における色彩の拡がりが版画に抑制と秩序をもたらしている。木版画でみせるあの無量の青は、こうして生まれてきたのか。

F30号 油彩・キャンバス(2014年制作)

F50号 油彩・キャンバス(2014年制作)

F15号 油彩・キャンバス(2014年制作)

堀江良一

【略歴】
1943
名古屋市に生まれる
1966
東京藝術大学 絵画科油画専攻卒業
1969
個展 おいせ画廊 (名古屋)
1969
日本版画協会展
1969
第14回CWAJ版画展にて佳作賞
1969
CWAJ版画展 ~73、78、80~93、95~03、05~09、11~14年
1970
個展 養清堂画廊 71年
1974
今日の版画63人展 東京セントラル美術館
1975
現代版画コンクール 大阪府民ギャラリー 79年
1976
HAKU版画展 ギャラリーはくぜん (名古屋) ~84年
1979
サンシャイン版種別グランプリ展 りゅう画廊 ・80年
1980
日本の版画6人展 エディションズ画廊 (オーストラリア)
1980
個展 ギャラリーはくぜん (名古屋
1981
版画グランプリ展 日動画廊 ・85年
1982
個展 ギャルリーユマニテ (名古屋) 84、87年
1982
個展 ギャルリーヴィヴァン (東京)
1983
岐阜現況展 岐阜県美術館
1983
中華民国国際版画展 (台北) 85、89年
1983
現代版画 in NAGOYA 愛知県美術館 ~89年
1984
バーゼルアートフェス (スイス)
1984
第10回クラコウ国際版画ビエンナーレ (ポーランド) 86、88、91年
1984
第11回イビザビエンナーレ (スペイン)
1985
ニューヨークアートエキスポ 86、87年
1987
個展 ギャラリーF (美濃加茂) 88、92、97、04年
1987
日本現代版画展 ウォーカーヒル・アートセンター (韓国)
1990
現代版画名古屋 愛知県美術館 ~93年
1991
個展 ギャラリーA・C・S (名古屋)
1992
韓・日現代版画交流展 新世界美術館 (韓国)
1992
東海の作家たち 愛知県美術館ギャラリー
1993
個展 ギャラリーAPA (名古屋) 96年、00年
1994
中・日版画交流展 国立歴史博物館 (台北)
1995
SAWA現代美術展 ギャラリー沙和 (名古屋) 96年
1996
第3回高知国際版画トリエンナーレ展
1996
第11回国民文化祭とやま’96にて佳作賞
1997
岐阜・現代の美術 岐阜県美術館 ~02年
1997
第3回川上澄生美術館木版画大賞展 99年
1900
個展 松欅堂 (豊田) 02、05、07年
1903
彩EXHIBITION ギャラリー彩 (名古屋) ~11年
1903
個展 ギャラリーなうふ (岐阜)
1903
個展 木曽路美術館 (長野県木曽郡)
1904
日本の木版画100年展 名古屋市美術館
1904
個展 北ビワコホテル グラツィエ・ギャラリー (長浜)
1906
個展 四郷版画館 (四日市)
1906
北ビワコ現代美術展 北ビワコホテル グラツィエ・ギャラリー
1908
飛騨高山現代美術展 ギャラリー遊朴館 (高山)
1912
三幕の物語 郷土作家逍遥展 岐阜県美術館
1912
池田山麓現代美術展2012 極小美術館
1913
南アルプスミニチュア版画展にて南アルプス市長賞
【パブリックコレクション】
■ロサンゼルス・カウンティ美術館
■米国議会図書館
■国立国際美術館
■岐阜県美術館
■美濃加茂市民ミュージアム
※開催時点