Contemporary Art

極小美術館

2017.3/26 (sun) 〜 2017.5/31 (wed)

No.23

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

根源的な調和

和歌由花(美濃加茂市民ミュージアム学芸員)

 あるレリーフは、モノトーンの正方形のみで構成されている。四辺形の幾何学な形体が、重なるように組み上げられたものもある。自然光に満たされた静謐な作家の仕事場、柔らかな陰影が面に滑らかなグラデーションを与える。ある作品においては、矩形の背後から鮮やかな色の「光」が放たれている。絶対的な均整美、しかしどこか柔和な表情を宿す。
墨勝之は、デザイナーとしての仕事を経て2000年以降、ファイン・アートの制作に力を注ぐようになった。絵画、レリーフ、立体等、作品は実に多様である。アートはデザインよりも自分の思うままにできると、自由な発想をノートに書き記す。そこには、幾何学的な図形や数字が散りばめられていた。作家は、自身の美意識の根に一貫して幾何学的抽象、正方形の形体が在るのだと語る。
 一時は、木のパネルにアクリルで線や色面を描く抽象絵画を手掛けた。そこに電動ノコギリで線を刻む。すると手で描いた線とは異なる、統制しきれない線が生まれた。恐らくはこの頃から、作品の中に自分の手を超越する微かな生動を求めていたのであろう。
抽象を模索する中で、作家はマレーヴィチのシュプレマティズムの理論に出会う。それを実践するように、正方形あるいは正方形から派生する四辺形のみで三次元的なレリーフの制作を始める。木の板を自在に組みあげた作品には素材の持つ温みが残り、幾何学的抽象が陥りがちな冷たさを免れている。近年はモノトーンを基調とした抽象的なレリーフに、陰影を与える試みを続けている。
 しかしながら、直に影を描くことはしない。影が色となるように、面は組み上げられている。光を受ける時、異なる角度で斜めに交わる面には、影の効果による暗色へのグラデーションが生まれる。あるいは反射した光が、別の板に色を映すという仕組みで色の影を作る。色の影は、場の光や時の変化にうつろう。それは西洋のステンドグラスや油彩画を彷彿とさせる。原理は影であるが、映る色は「光」のごとく輝きを放ち、観る者の目に届けられる。色に縁どられた矩形は、物質としての重量から解き放たれたように、ミニマルな形体そのものとして空間に浮遊する。
 数学的な美を宿す正方形と黄金比矩形。絶対的な均整を保つ形の傍に、影とも光ともつかぬ柔らかな色が存在し、絶妙な均衡を保っている。統制された静的な形体と光に揺らぐ動的な色、両者の響きは教会に鳴り渡る音楽のように神秘的である。観る者は、形体と色面、影と光、静と動、アートを構成する根源的な調和を見出す。
本展では、新作を含めて正方形のシリーズを中心に空間構成を試みるという。自然光が射し込む極小美術館の最上階、祭壇を想起させるあの場所に、墨の作品はどのように共鳴するのだろうか。

無題(2016年制作)920 × 820 mm ミクストメディア

710 × 710 mm

430 × 470 mm

墨勝之

【略歴】
1942
岐阜市生まれ
1966
ビジュアルデザイン研究所・久保田宣伝研究所(東京)修了
1967
デザインオフィス・アイデア萬設立
1978
第21回ソサエティ・オブ・イラストレーターズ国際展入選
1979
中部グラフィック・イラストレーターズ展出品、訪米(ニューヨーク)
1979
イラストレーターズ21作品収録(USA)
1979
第3回ラハチ・ポスタービエンナーレ入選(フィンランド)
1980
グラフィックレリーフ2人展(岐阜パルコギャラリー)
1980
日本のグラフィックデザイン展出品(西ドイツ)
1981
日本のポスター展出品(ポーランド)
1981
第4回ラハチ・ポスタービエンナーレ入選(フィンランド)
1981
novum誌作品収録(西ドイツ)
1982
グラフィスポスター’82作品収録(スイス)
1982
日本のタイポグラフィ展出品(東京・ニューヨーク)
1985
日本のタイポグラフィ展出品(フランス)
1986
中部クリエーターズクラブ・ニューヨーク展出品
1989
岐阜県デザイン産業育成推進協議会委員委嘱
1990
岐阜市美術展部会委員、委嘱及び審査員 ※1990〜1997
1993
デザインフォーラム’93展入選
2000
グループ「源流」展参加 ※2000〜2011(岐阜県美術館)
2001
中部クリエーターズクラブ・中国四川省成都デザイン交流展出品
2002
個展「文字逍遥」(岐阜・偕拓堂ギャラリー)
2003
個展「枯山水」(岐阜・本巣市・ギャラリー橙)
2005
個展「グラフィックポスター展」(長浜・北ビワコホテル・グラツィエギャラリー)
2007
北ビワコ現代美術展2007出品(長浜・北ビワコホテル・グラツィエギャラリー)
2008
飛騨高山現代美術展2008出品(高山・ギャラリー遊朴館/里山フィールド)
2010
個展「気色≒色影」(名古屋・ギャラリー名芳洞)
2010
池田山麓現代美術展2010出品 (岐阜・池田町・極小美術館)
2012
個展「混Mingle」(名古屋・ギャラリー名芳洞)
2012
池田山麓現代美術展2012「象の檻」出品(岐阜・池田町・極小美術館)
2014
個展「色方形」(名古屋・ギャラリー名芳洞)
2015
個展「色面響」(西尾市・イナガキ・コスミック・ギャラリー)
2016
個展「色影界」(名古屋・ギャラリー名芳洞)
【コレクション】
■武蔵野美術大学
■九州造形短期大学
■ボスナニ美術館(ポーランド)
■チューリッヒ造形美術館(スイス)
■ラハチポスター美術館(フィンランド)
■四川美術家協会(中国・四川省)
※開催時点