Contemporary Art

極小美術館

2021.8/29(sun)~ 2021.10/3(sun)

No.37

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

踏み出す制作

高橋秀治(豊田市美術館館長)

 新型コロナ感染症の世界的な流行が始まって1年以上が経過した。中国武漢の市場関係者の感染や、クルーズ船の感染パニックがニュースをにぎわし始めたころには、想像さえできなかった非日常が日常となってしまった現在。創作活動をする人たちも様々な影響を受けていることだろう。制作することそのものは個人の営為であるから、感染のリスクを高める他者との交流は多くはない。そのためか作家から「コロナでもあまり変わりありません」という言葉も聞くこともあった。しかし、実際のところ他者との関係をなしにして人間生活は送れないだろうし、作家にとって発表の場を失うことも実は制作にも大きな影響を与えているに違いない。意識するにしてもしないにしても、生活リズムを含めてじわじわと創作にもその影響が出て来ているのは間違いないだろう。
 大学で教鞭を執っている河西さんも、本人の意識には制作活動へあまり影響を受けていないと感じているかもしれない。しかし、実際昨年度は制作場所としている大学構内のスタジオに立ち入ることさえできなかった時期もあれば、学生とのリアルな授業が行えずリモートにせざる得ない時期もあったという。さらに、これまで20年以上に亘って他流試合の場として出品を続けてきた新制作協会の展覧会自体が昨年度は無くなってしまった。それに向けての大作の制作が出来なかった年となった。そして、今回の発表である。予定されている中心作品となる2mを超える人体像の表現には、これまでそれほど感じられなかった前方へのムーヴマンが、あからさまではないがジワリと感じられる。
 人体像の表現も前回の個展の頃までのような、胴部の量塊を(木そのものの存在感をも)意識させる表現から、胴部は細身となり、表面の処理も鑿跡が意識された以前の表現からもうすこし彫り進めている。半歩踏み出した脚は、閉塞感漂う現在の社会状況の中にあっても真摯に制作を進めていこうとする、作家の決意表明にも感じられる。
 美術界を見渡すと近年の傾向のなかには、制作者として何を表現したいのか、何を作りたいかというよりも、はじめから、どう作ったら観客に受けいれられるかを計算づくで、つまり「受ける作品」を早く作りたいとでもいうように感じられる傾向が目に付くようになってきた。いつの時代でもスター作家の亜流が発生し、あるいは、団体に属していれば、団体のリーダー作家の模倣に終わる人たちがいる。亜流や模倣に終わるのは、本当に自分の作りたいものがないのかもしれない。どんな巨匠でも先達の作品から何かを学び取って模倣的な作品を作る時期はあるが、そこでとどまらず、それを糧にして自らの表現を開拓していく。その根源にはどう見られたいかではなく、自身の中に何をどう作りたいかが第一にあることだろう。
 河西さんと話していると真摯に自らの表現を追求していこうという想いがひしひしと伝わってくる。彼が惹かれる作家名に中世ドイツの彫刻家ティルマン・リーメンシュナイダーの名前を聞いた。後期ゴシックの重要な彫刻家で、どこか求道者的な人物であったと記憶しているが、河西さんの制作態度とつながっているようで納得したのである。

 河西さんは、大学時代のはじめは絵画を修め、キャンバスから板を支持体にしたところから、その表面の抵抗感やマチエールに惹かれて、彫刻に転向。学びなおして木彫家としてキャリアを積んできた。そのデッサンは、木彫のためのデッサンだけにとどまらない絵画としての勁さを併せもっている。今回の展覧会の準備段階で制作途中の作品を見せてもらった折に、同時に傍らにあった段ボール紙に、描かれたデッサンにも目が行ってその魅力を強く感じた。一緒に展示することを勧めたが、はたしてそれら含めた展示になるのか楽しみである。

ヒト(2918年)
H220cm × W60cm × D90cm クス

ヒト(2917年)
H200cm × W70cm × D70cm クス

ヒト(2919年)
H110cm × W45cm × D130cm クス

おとこ・おんな(2918年)
H95cm × W90cm ×D14cm サクラ・カヤ

河西栄二

【略歴】
1966
山梨県に生まれる
1995
筑波大学大学院修士課程芸術研究科彫塑分野修了
1995
第59回新制作展初入選、以後毎年出品 (東京都美術館、07年~ 国立新美術館)
2001
那須野ヶ原国際彫刻シンポジウムin大田原2001参加
2003
第67回新制作展新作家賞受賞 ※06年 第70回
2004
新制作協会受賞作家展 ※07年 (ギャラリーせいほう・東京)
2004
第38回現代美術選抜展 ※文化庁主催
2007
新制作協会会員推挙
2007
第18回富嶽ビエンナーレ展 (静岡県立美術館)
2009
第3回岐阜アートフォーラム 河西栄二彫刻展 (岐阜市上宮寺)
2009
アートを愉しむ小品展 (ギャラリーパスワールド・岐阜市)
2012
緑の中の小さな彫刻展 ※13、14、15年 (ギャラリー華・東京)
2013
リアリズムの深層 (極小美術館・岐阜県池田町)
2013
次代を担う彫刻家たち展 ※15、17、19年 (現代彫刻美術館・東京)
2014
公募団体ベストセレクション美術2014 (東京都美術館)
2014
彫刻家 内藤堯雄・河西栄二 作品展 (岐阜大学旧早野邸セミナーハウス・岐阜県大垣市)
2015
新彫会彫刻展 (福井県立美術館)
2015
河西栄二彫刻展 ※18年 (ギャラリーいまじん・岐阜市)
2015
河西栄二展 (極小美術館・岐阜県池田町)
2016
ゲタ箱展 ※17、19、20、21年 (芸術文化研究所・栃木県)
2016
彫刻村2016展 (ぎふメディアコスモス・岐阜市)
2016
歌となる言葉とかたち (古今伝授の里フィールドミュージアム・岐阜県郡上市)
2017
現代美術の新世代展 (極小美術館・岐阜県池田町)
2017
大原央聡・河西栄二木彫展 (筑波大学大学会館・茨城県)
2017
長崎・国際彫刻展 (アルカイック・長崎県)
2019
岐阜市芸術文化奨励賞
2020
新制作彫刻部WEB展覧会
2021
新制作協会彫刻部小品展 (ギャラリーせいほう・東京)
2021
岐阜市芸術文化奨励賞創設25周年記念展 (加藤栄三・東一記念美術館・岐阜市)
現在
岐阜大学教育学部美術教育講座准教授 新制作協会会員
※開催時点