Contemporary Art

極小美術館

2024.3/10(sun)~ 2024.4/14(sun)

No.47

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

服部八美の「存在」への問いかけ

古川秀昭
(OKBギャラリー館長、前岐阜県美術館館長)

 昨年12月に岐阜市の上宮寺で服部八美が近作を撮影するというので見に行った。上宮寺は小笠原宣が住職であり画家であり、広く表現者のコミュニケーションの場を長く続けている拠点である。私がその上宮寺に着いたのは読経がかすかに聞えてくる本堂脇の畳の広い部屋で丁度撮影が終了した時だった。その日私は勝手に寺の境内に服部のあの重厚な円筒状の作品がセッティングされるとばかり想像していたのだ。ところが境内にはそれらしきものはなく、読経を聞きながら、まさかと思いながらも靴を脱ぎ、無断で畳の広間に入って驚いた。そこには眩しいほどの純白なプラスチックの軸棒が収穫前の麦畑のように垂直に立ち広がっていたのだ。撮影を終えた服部は「これが次の極小美術館の出品作だ」という。
 建築材料の梱包材として使われるらしいプラスチックの軸棒は、今回もそもそもの目的から外れた服部流の仕掛けによって作品の要となる実材として輝いている。実際見たこともない不思議な収穫畑なのだ。これまで服部がいくつか制作した荒削りで頑丈な円塔作品とは異質で、ひ弱な素材で優しく構築されて 四角い台地には傾斜がついた鏡面板が並ぶ。近づくと白い垂直のプラスチックは鏡面には地下の内側に深く沈むような錯覚を覚える。
 服部の作品はここでもまた、存在するものに「存在の本質の虚実」を行き交う感覚を覚醒させる力がある。
 今回の作品は軟弱な素材で垂直に高揚する形が鏡面に映る形では、地下の四角錐の中心に深く沈殿する動きが発生しているのである。なんとも目に見える垂直する実材よりも、映る虚像の方がはるか深く底知れない領域に無言で吸い込む一種の畏敬念を感じざるを得ないのだ。
 そういえばこれまでの建築廃材や廃棄物で仕立てられた円柱の服部八美の1996年ソフトピアジャパンの「常立御柱(龍宮底神)」や大野町温水プールの「ゆーみんぐ」などの作品も、彼の作品の材料を廃棄物とした生んだ壮大な建築物が突如空虚な存在となり、服部の作品がより強靭で絶大な存在感を覚醒させているのではないだろうか。
 服部は長野県の森で、いくつかの樹木の表面に縦長の鏡面版を張るインスタレーションをしている。私はそれを動画で知ったのだが、その森に入るとその鏡面に映し出された周辺の木が映る。木を見るとその木に設置された鏡面に別の木がある。まるでルネ・マグリッドの絵を見ている錯覚を覚える。現実の木と虚像の木を同時に見るのである。鏡に映る木は当然実際の木よりも小さく映るのだが、見る者には一体どちらが本当の木なのだろうとそこでも虚実の交換が起きる。こうした服部の実体のある実像と映された虚像に私たちはもう一度「在る」ことへの問いと不思議を味わう。
 今や社会は原発再開の不安や核戦争の恐怖、異常気象による災害不安、高齢化と少子化による国家政策の破綻など行き詰る現実に真の日常と平和像を見出す時であろう。

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瑞穂の国 風

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瑞穂の国 風

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瑞穂の国 風

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長野県大町での展示

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長野県大町での展示

服部八美

【略歴】
1959
岐阜市に生まれる
1982
名古屋芸術大学彫刻科卒
1982
個展 (古陶館・岐阜市)
1988
日本現代陶彫展’88 優秀賞 (土岐市)
1990
第4回現代具象彫刻展 (千葉県美術館)
1990
日本現代陶彫展’90 (土岐市)
1990
FROM OUR HEARTS (岐阜県美術館)
1991
半田市野外彫刻展 (半田市)
1992
第5回現代具象彫刻展 (千葉県美術館)
1992
第2回ストーンミュージアム石彫展 (香川県ストーンミュージアム) ※~2010年
1992
日本現代陶彫展’92 優秀賞 (土岐市)
1993
ストリートギャラリー彫刻展示 (名古屋広小路)
1993
ART FROM ECOWORLD彫刻展 (岐阜県美術館・白川町)
1994
ART FROM ECOWORLD彫刻展 (岐阜県揖斐郡・大野町)
1994
’94街はアートで溢れる (愛知県一宮市) ※95、96年
1995
’95 びわこ現代造形展 (滋賀県大津市)
1996
ソフトピアジャパンモニュメント設置事業 (大垣市)
1996
花フェスタ記念公園彫刻展 (可児市)
1997
個展 (織部亭・愛知県一宮市)
1998
日本現代陶彫展’98 (土岐市)
1998
’98 公募 第11回全国和紙画展 佳作 (美濃市)
1998
第13回国民文化祭おおいた98「アジア彫刻・陶芸の祭典」 朝地町賞 (愛の園生 朝倉文夫記念公園・大分県)
2000
日本現代陶彫展2000 (土岐市)
2006
個展 (ギャラリーパスワールド・岐阜市)
2006
ユーモア陶彫展 (土岐市)
2008
飛騨高山現代美術展2008 (高山市)
2009
アートを愉しむ小品展 (ギャラリーパスワールド・岐阜市)
2009
思い出の石彫展 (香川県ストーンミュージアム)
2010
Art Scene in Gifu 2010 − 絵画・彫刻 − (ギャラリーパスワールド・岐阜市)
2011
中之条ビエンナーレ (群馬県中之条町)
2012
“瀬戸の都・高松”石彫トリエンナーレ2012 (香川県高松市)
2012
池田山麓現代美術展2012「象の檻」 (極小美術館・岐阜県)
2013
中之条ビエンナーレ (群馬県中之条町)
2015
中之条ビエンナーレ (群馬県中之条町)
2017
個展 服部八美展 (極小美術館・岐阜県)
2020
個展 服部八美展 A rice field (岐阜市)
2021
北アルプス国際芸術祭パートナーシップ事業
2021
服部八美展 Forest (長野県大町市)
【コレクション】
▪不思議の森 吉川千香子の世界(名古屋市東山植物園)
▪土岐市立泉中学校 (土岐市)
▪セラミックレインボーロード ポケットパーク(土岐市)
▪まどか幼稚園 (岐阜市)
▪美濃白川クオーレの里 (加茂郡白川町)
▪温水プール ゆーみんぐ (揖斐郡大野町)
▪ソフトピア・ジャパン センター (大垣市)
▪愛の園生 朝倉文夫記念公園(大分県朝地町)
▪せせらぎ公園 (土岐市)
▪岐阜県立不破高等学校 (不破郡)
▪清翔高等学校 (岐阜市・岐阜南高等学校)
▪東海環状自動車道 土岐多治見IC(土岐市)
▪ぎふワールド・ローズガーデン (可児市)
※開催時点